常磐線舞台芸術祭について

常磐線舞台芸術祭とは

「常磐線舞台芸術祭」は福島県を中心とした常磐線沿線で繰り広げられる舞台芸術の祭典です。初回テーマは、「つなぐ、」
震災が残した爪痕は、大小そして内外を問わず様々な「分断」を生み、未だその影を落としています。
舞台芸術の力をもってその分断を少しでも「つなぎ」それぞれが手繰り寄せ、地域のもつ本来の美しさや魅力を再発見し体感してもらうことを目的とした芸術祭です。

「手繰り寄せる、線を」

文・小松理虔

わたしたちは線を引く。
わたしとあなた、
自国と他国、
北と南、
東と西。
いつの時代も、どの土地でも、
わたしたちは線を引き、
自分たちが何者であるかを知ろうとしてきた。
そしてまた、わたしたちを「圏内/圏外」というように切り分け、
「来てはいけない土地」を作りもした。

けれど、内と外をつなぐのも線だ。
道によって点と点は線となりヒトとモノはめぐる。
共感や情という線は、その姿形は見えなくとも、
わたしとあなたを隔てていた 
もう 1 本の線を溶かし、あるいは超え、くぐり抜けてゆく。
そのことを、わたしたちは大きな災害を通じて感じ取った。


線は、わたしとあなたをつなぐだろうか。
それとも、分かち断っただろうか。
わたしとあなたの線。
演者と観客の線。
生者と死者の線。
圏内と圏外の線。
線は今、どこにあるのか。どこに引かれていたのか。
考え、そして問いたい。
だから、わたしたちは、手繰り寄せる。

その線を。

いま、ここで、舞台芸術に何ができるのか?

それは、隔てられているものを、どうしたらつなぐことができるのか、という問いでもある。

線と言う言葉は、分断や対立に用いられるが、糸と泉で成り立っていることから、人間の本源が対立ではなく、混じり合うところにあるということを表している、とわたしは思う。

立場や考え方によって隔てられていても、わたしたちは互いに重層して関連し合う空間と時間の中に生まれ、
食べ、暮らし、そして死んでいく。

先ず、つなぐ、という意志を持つ。
つなごうとした指先が届かなかったとしても、つないだ後に再び隔たりが生じてしまったとしても、
わたしから出発してあなたへと向かう、その軌跡が糸となり泉となり得るのではないか?

常磐線舞台芸術祭
プログラム・ディレクター
柳 美里

connecting the dots

 昨今、教育の世界でも、この言葉がよく使われるようになりました。
 いつでも、どこでも、(にせものも含めて)情報を大量に得られるこの時代に、点と点、得られた情報と情報の断片をつないで、物語を紡いでいく能力が求められます。
 これまで、ふたば未来学園で行ってきた演劇教育も、まさにそのような営みだったのだと思います。

 風評もフェイクも、過去も未来も、そして震災と原発事故でズタズタになってしまった福島・浜通りのそれぞれの市や町を、人々の小さな生活を、物語でつないでいく。
 この常磐線舞台芸術祭が、世界でも希な「線」の芸術祭に育っていければと願います。

常磐線舞台芸術祭
フェスティバル・コーディネーター
平田 オリザ